人気ブログランキング | 話題のタグを見る

ザトウクジラの夢

心身ともに敏感になっていて、困っています。それでも、頭の中は宙を泳ぐようで、記憶はそこを川のように流れ去って行きます。
夕方、ある本の中の一節が、流れてしまわないで、思考の中に落ちてきました。
 この怖れが私のここにある、大いなるものの上になぜ安心と、喜びと信頼を持つことが出来ないのかと。そして、それを受け入れることがなぜこんなに困難なのかと・・・
染み入った一節でした。
  ◆    ◆    ◆
私は海面の上に置かれた、背もたれのついた木のいすに座っている。四本の脚はどういうわけか海面にきちんと立っていて、私の下には深い海溝があることを知りながら、一面の広漠たる大海原を見渡している。真下の暗い海のなかを見下ろすと、私のほうへ動いてくる何か大きな姿が見える。どんどん近づいてくる・・・・。それはザトウクジラだった。
 クジラがその頭を動かし、垂直に立つようにゆっくりと頭を持ち上げると、私を見ているその目を見ることができた。それからクジラは、その大きな頭をもとに戻して体を水平にし、背中を私の真下に近づけてきた。そして、巨大な体を私の座っている小さな椅子の下におくと、とても穏やかに、ほんの少しだけ海から私を椅子ごと持ち上げた。椅子はわずかに振動したけれど、まっすぐ立ったままだった。
 私は仰天した。偉大な神の創造物が、その体を私の下に意図的に置いたのだ。それどころか、私を持ち上げている。クジラが発する放射物は、その巨大な体よりもいっそう大きかった。それは、私たちを取り巻く海水よりも多量に思われる大きな愛情や知恵であり、あらゆるもの、あらゆる場所に浸透している。またして私は結合感に征服され、幸福の世界を漂っていた。
 けれどもそう感じていたのも束の間、その穏やかな世界にとどまるどころか、恐くなった私はこんな想像をしたのだ―クジラがそこをどいて、確実に溺れるであろう暗い海の中へ椅子が沈んでいく。私はびくびくしながらクジラが動くのを待ち、神経質にクジラと海の様子をうかがっていた。そして、それは起こった。
 ほとんど体に感じないほどに、クジラは私を椅子に乗せたまま海のなかに降り始めた。持ち上げたときと同じようにゆっくりと、その偉大な生き物は海のなかに沈んでいくと、海面の上でもう一度私の椅子のバランスをとった。注意深く、そしてやさしく、クジラが私をちらっと振り返って見た。しばらく私たちの目が合った。私たちの目―そう、そして次に私たちの「心」が合ったとき、私は胸が張り裂ける思いがした。クジラが戻り始めたのは、私の恐怖を感じ取ったからなのだ。
 クジラは私の目を見つめながら、私に思いやりのある、けれど痛ましいメッセージを送りつづけた。私が恐さを感じているかぎり一緒にいることはできないのだ、と。クジラは私の心に触れようとした。互いの心を溶け込ませ始めようとしたのだ。けれども私はそれを受け入れることがまったくできなかった。あまりにも恐ろしすぎて。

 私の目の前にいるこの高尚な神の創造物は、私がジレンマに陥っていることを理解しながらも、私の苦しみを軽減しなかった。
 
 偉大なクジラはそこにとどまったまま、私の心のなかにあるこの恐怖は一時的なものなのだという感覚を依然として私に染み込ませようとしていた。

 心の中で私は大声で叫んだ。言葉にせずに、私は懇願したのだ。行かないで、そこにいてくれるように、そして私の無知を許してもう一度チャンスを与えてくれるように、と。けれどクジラは海のなかに沈んでいき、私は自分のベッドで目が覚めた―悲嘆に暮れて。(以上 引用)
  ◆
ザトウクジラの夢_d0010900_21483845.jpg 
『イルカの夢 癒される心』 レベッカ・フィッツジェラルド・著
著者はカレッジの大学院で臨床心理学を学んだ後、サンタフェの病院でセラピストとして従事していたが、イルカとの出会いからバハマで「ドルフィンスイム」を設立。現在は引退している。
by angelglobe | 2005-08-26 22:07 | メッセージ